兵庫県立美術館『ミュージアムのミステリー』、収蔵品から生まれた7つの名前

兵庫県立美術館『ミュージアムのミステリー』、収蔵品から生まれた7つの名前

展示室の前に、新しい名札が七つ増えたような感触がある。
兵庫県立美術館で会期が始まった県立ミュージアムズ連携企画『ミュージアムのミステリー』で、本展限定キャラクター7体の名前が決まった。
開幕直後の展覧会に、作品名や資料名とは別の、呼びかけるための言葉が加わった。

みらるん、ミッケル、どっしりん、ルドるん、三ツ山先生、わいやん、とりはにぃ。
並んだ名前は、展示物をかわいく包むラッピングというより、収蔵品や研究対象の前に小さな案内役が立ったように見える。
館の棚や研究室の奥にあったものが、急にこちらの目線まで降りてくる。

「ミステリー」の入口は、暗い廊下や悲鳴より、展示ケースのガラスに貼られた小さな「?」に近い。
保存、研究、展示、資料整理という館の手つきが、夏の1F展示室で少し見えやすくなる。
その見えやすさを作っているのが、七つの名前と、七つの少しへんてこな身体なのだと思う。

ミュージアムのミステリー:
兵庫県立美術館で開催される県立ミュージアムズ連携企画。
会期は2026年6月6日から9月13日まで。
会場は兵庫県立美術館 1F展示室。
県立ミュージアム7館のコレクションを横断的に取り上げ、神秘・不思議・謎・活動の謎・怪奇などの切り口で紹介する展覧会。
休館日は月曜日。
ただし7月20日(月・祝)は開館し、翌7月21日(火)は休館。

名前が付くと、収蔵品は少しこちらを向く

収蔵品は、作品名や資料名、年代、所蔵館のラベルによって読者の前に立つ。
そのラベルはとても大事なのに、初めて見る人には少し硬く、展示ケースの向こう側で背筋を伸ばしているようにも見える。
ガラス、台座、照明、キャプションの列がそろうほど、こちらは「正しく見なければ」と身構えてしまう。
その緊張は美術館や博物館の魅力でもあるけれど、入口に立つ子どもや、久しぶりに展示室へ入る大人には少し高い段差にもなる。

そこへ「みらるん」「ミッケル」「どっしりん」「ルドるん」「三ツ山先生」「わいやん」「とりはにぃ」という名前が入ると、入口の高さが変わる。
資料名の堅さは残したまま、呼びかけるための取っ手がひとつ付く。
難しい解説を読む前に、まず名前を覚えてもいいのだと、展示の手前に小さな余白ができる。
呼び名があると、知らない資料に対しても、いきなり正面から向き合わず斜めから近づける。

名前は、展示の答えを先に配る道具ではない。
むしろ、ラベルを読む前に立ち止まるための小さな合図になっている。
名前の丸みや引っかかりからモデルへ戻ると、収蔵品の輪郭が別の角度で見えてくる。
古代鏡の前に「みらるん」がいることと、ルドンの版画の前に「ルドるん」がいることは、同じ名札の付け替えではなく、資料ごとの見方を少しずつ変える仕掛けになっている。

7つの県立ミュージアム:
兵庫県立歴史博物館、兵庫県立人と自然の博物館、兵庫県立考古博物館、兵庫県立考古博物館加西分館 古代鏡展示館、兵庫陶芸美術館、横尾忠則現代美術館、兵庫県立美術館。
本展では、各館の資料・作品・研究対象に結びつく展示の見どころや本展限定キャラクターが紹介される。

7館ぶんのコレクションが、小さな身体を持つ

本展が取り上げるのは、兵庫県立歴史博物館、兵庫県立人と自然の博物館、兵庫県立考古博物館、同加西分館古代鏡展示館、兵庫陶芸美術館、横尾忠則現代美術館、兵庫県立美術館の7館だ。
それぞれの館が持つ資料や作品や研究対象が、展覧会の中で同じ卓上に並ぶ。
場所もジャンルも違うコレクションが、ひとつの1F展示室へ集まることで、兵庫のミュージアムを横から見る回路が生まれる。
いつもなら別々の建物で保管され、別々の専門語で説明されるものが、ここでは同じ会期の中で隣り合う。

古代鏡展示館の「みらるん」は古代鏡の面を、兵庫県立人と自然の博物館の「ミッケル」はコウベタヌキノショクダイを、兵庫陶芸美術館の「どっしりん」は丹波焼の壺を背負っている。
兵庫県立美術館の「ルドるん」はルドンの版画から生まれ、兵庫県立歴史博物館の「三ツ山先生」は三ツ山の造り山をまとい、横尾忠則現代美術館の「わいやん」は横尾忠則さんの作品を、兵庫県立考古博物館の「とりはにぃ」は水鳥形埴輪を入口にしている。
名前を追っていくと、各館の専門領域が、鏡、植物、土、版画、祭礼、現代美術、古墳という形で手触りを帯びてくる。

面白いのは、7体が同じデザイン規則に押し込められていないところだ。
鏡は車輪のように立ち、植物は足元から顔を出し、壺は重さをそのまま引き受け、目玉のトカゲは版画の不穏な形を歩き出させる。
三ツ山は先生になり、横尾作品の強い色と形は口の大きな案内役へ寄り、水鳥形埴輪は首の長さを残したまま立ち上がる。
館ごとの得意分野が、解説パネルではなく体つきとして読める。
この体つきの違いがあるから、7館の連携は一覧表ではなく、七つの方向へ歩き出す小さな隊列に見えてくる。

makomo:
大阪生まれ・大阪在住のアーティスト、イラストレーター。
雑誌、書籍、WEB、キャンペーンビジュアル、キャラクターデザインなどで活動。
本展では、7つの県立ミュージアムに対応する展覧会限定キャラクター制作に関わっている。

怖がらせるより、ラベルの前で立ち止まらせるミステリー

この展覧会で扱う「ミステリー」は、事件の犯人を当てる種類の謎から少し離れている。
展覧会構成には、神秘、不思議、謎、活動の謎、怪奇といった切り口が置かれている。
それでも中心にあるのは、館が作品や資料を抱え続ける時間であり、来館者の目に触れにくい保存や研究や教育普及の手つきだ。
展示室に出ているものは、館の仕事のごく明るい面で、その背後には箱、棚、記録、調査、修復、貸し借りの手続きが続いている。

たとえば古代鏡は、鏡面をのぞく道具である前に、長い時間をくぐってきた資料でもある。
水鳥形埴輪は、鳥の形のかわいさと、古墳から出土したものとしての距離を同時に持っている。
丹波の壺には、焼かれた土の重さと、器が使われた場所の気配が残る。
それらは怖がらせるために並ぶのではなく、どうして残り、どうして調べられ、どうして展示室に置かれているのかを考えさせる。

ミステリーという言葉がうまく働くのは、わからなさをすぐ消さないところだ。
怖い音を鳴らして終わるのではなく、ラベルを読む手前で「これは何を見ているのだろう」と足を止める。
キャラクターは、その足止めを柔らかくする案内役として置かれている。
名前があるから近づけるし、近づいたあとで資料の古さや作品の奇妙さにもう一度驚ける。
案内役の顔を見て安心したあとに、作品名や資料名の長い時間が背後から追いついてくる。

本展限定キャラクター:
makomoさんが展覧会に合わせて制作した7館のキャラクター。
名前は、みらるん、ミッケル、どっしりん、ルドるん、三ツ山先生、わいやん、とりはにぃ。
2026年6月5日に名前決定が告知され、名前募集には700名を超える応募があった。
7館との対応関係はキャラクター名PDFで確認できる。

700名超の応募が、展覧会の外側にも名札を増やした

名前決定の告知は、開幕前日の2026年6月5日に出ている。
名前募集には700名を超える応募があり、7体の名前は会期が始まるタイミングで展覧会の言葉になった。
開幕の扉が開く直前に、キャラクターたちは番号や説明ではなく、呼ばれるための音を持った。

この数字を勝ち負けとして読むより、応募用紙やフォームの向こうに、展示を見る前の参加がたくさんあったと読むほうがしっくりくる。
まだ展示ケースの前に立っていなくても、誰かがモデルを見て、音を考え、呼びやすさを試した。
その作業は、ラベルを書くことに少し似ている。
作品や資料の特徴を拾い、余計な説明を削り、最後に声に出せる形へ折りたたむ。

選ばれた名前には、意味の説明より先に声に出したときの軽さがある。
「どっしりん」は壺の重心をそのまま抱え、「とりはにぃ」は水鳥形埴輪の首の伸び方まで連れてくる。
「三ツ山先生」と呼ぶと、祭礼図の中の三つの山が、どこか教室の前に立つ存在へ寄ってくる。
この名前の軽さは、資料を軽く扱うことではなく、重い時間を抱えたものへ近づくための足場になっている。
応募という外側の手つきが、展示室の中のラベルと同じ方向を向いた瞬間でもある。

会期が進むほど、案内役は次の館への入口になる

『ミュージアムのミステリー』は、2026年6月6日から9月13日まで、兵庫県立美術館の1F展示室で開かれる。
開幕直後に名前がそろったことで、会期の早い段階から7体は展覧会の入口に立てる。
月曜日の休館日を挟みながら進む夏の会期に、名前は案内表示のように何度も読まれていく。

7館のコレクションを横断する展覧会は、見終えた後にそれぞれの館へ意識が戻っていく仕組みも持っている。
古代鏡の館、人と自然の標本や研究、考古の遺物、陶芸の土、横尾忠則作品、兵庫県立美術館の収蔵作品が、ひとつの会場で名札を交換する。
その交換の場に、みらるんたちがいる。
観光案内の地図ではなく、コレクションの癖から別の館へ進むための小さな矢印としている。
どこへ行くかを先に決めるのではなく、どの名前を覚えたかによって、次にのぞく館が変わる。

展覧会の謎を全部ほどくより、名前をひとつ覚えて展示室を出るほうが、あとで別の扉を開けやすい。
「みらるん」は古代鏡のラベルへ、「ミッケル」は研究対象の小さな発見へ、「ルドるん」は版画の目へ戻っていく。
会期中の1F展示室で始まった案内は、ガラスケースの前で終わらず、七つの館の扉に小さな名札を残していく。
その名札を読んだあと、次に開ける扉の向こうで、別のラベルがまたこちらを待っている。

参考ソース

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